舞台「何も変わらない今日という日の始まりに」

12/18 劇団皇帝ケチャップ 「何も変わらない今日という日の始まりに」 (中野ザ・ポケット)
これもまた、自分の古傷に触ってくる作品だった。
登場人物は不老研究の施設にいる被験者たちと所長・所員、そして公的機関から来た調査員。
主人公の瑛美は高校生のときの親友の死をきっかけに自らを罰するかのように施設の被験者となったが、死んだ友人は彼女にだけ見える幽霊としてずっと現れ続け、もうひとりの親友とは何十年もずっと文通し続けている。
他の被験者もみな何かしら訳有り。何も変わらない日々を続けていたが、調査員の来訪を機に事態が動いてく。
特に、ずっと家族が迎えに来るのを待ち続ける(がその家族はとうに死んでいる)矢射子と所員の美舞がらみのエピソードが、演者の力もあってか印象深い。
瑛美役・今出舞はそこそこ長い一人芝居が、それもコミカルなモードとシリアスなモードと複数あって、その演技に改めて力量を感じさせられた。

しかしあそこまで何十年も同じ想いを抱え続けるというのは、被験者みな、肉体だけでなく精神も固定されたままなのだろうという推測が成り立つのだが、もしそうであれば内罰的な瑛美にとっては特に残酷な話。
被験者のうち薫だけは物忘れがひどくなっている描写があったので、老化も成長しないまま記憶が徐々に壊れていくのかもしれない。
所長の里見も数十年を経て特に老境に差し掛かった描写はなかったので、自らも実験体としていたのだろうか。

舞台「ビジネス」

2019/12/14 マチネ Pxxce Maker’ 「ビジネス」(ザムザ阿佐ヶ谷)
今年一二を争う、メンタルに刺さった作品。
大手アプリ会社の、そもそもの祖業だったが今は傍流の部署となり本社から隔離されてしまった手紙・便箋部門。その中でも上昇への野心を熱く語り周りの態度を批判し差別発言も繰り返す厄介な男・村上が主人公。彼が心酔する合理的で有能な先輩・五十嵐はしかし家庭では問題を抱えていて。
ある日その部署に、本社からの使者の女性社員・種田が部署解散の通知を持ってやってくる。部署の面々はなんとか撤回させようと起死回生の企画案を練るが…。

いや、とてつもない作品を見た。個人的に仕事で近い境遇になったばかりということもあり、こんなに見ていてしんどくなった観劇は久しぶり。会社の問題、性の問題(登場人物の一人はFtMであり、演者自身もそう)、演劇ならではの突き刺し方。作・演出の谷碧仁さんはまだ二十代だというのが恐ろしい。
正直、アフタートークで演者の素のモードが見られなかったらずっと引きずってしまったと思う。
面会で「こういうの好きでしょ」と言われたけど、そう、こういう心に爪を立ててかき回されるような作品に出会ってのたうち回るのが好きなんだ。

舞台「終わらない世界」

2019/12/13ソワレ 「終わらない世界」 (博品館劇場)
2017/11に紀伊國屋ホールで上演された作品の再演。これも先日の「team」と同じく舞台初日開演までの話。
今回は主役のミワコを演じるのが大和悠河さんから緒月遠麻さんに変わったのだが、それによるテイストの違いを強く感じた。
この作品、禁酒法時代のアメリカをベースにした劇中劇部分とその稽古中の劇中での現実部分があるのだが、現実部分の芝居は緒月さんバージョンの方がよりリアル、劇中劇部分のケレン味は大和さんの方が派手だった印象。
ただこの印象の違いにはセットがやや地味になり(リアルな稽古場に近づいた)、その分見た目のショー感が薄れたせいもあるのかもしれない。数少ない初演と共通キャストの藤田奈那は裏表のある計算する女の子をしっかりと見せ、 二年分の成長を感じさせた。
芝居から受けた印象からすると、ミワコのライバル・サヨコ役の十碧れいやさんと役を交換したバージョンも成立すると思われ、これも見てみたいところ。
あと、この日のアフタートークで語られたのだけど、マチネ・ソワレ間にあるキャストの衣装の帽子が行方不明になり、最終的にトモル役の上遠野太洸さんが場所を言い当ててギリギリ間に合ったというエピソードが。見つからなかったらどうなってたんだろう。

観劇記録2019/10~11

2019/10/14マチネ ENG「探偵なのに」 (シアターグリーン BIG TREE THEATER)
しがない私立探偵はあるお嬢様が不審な男たちに絡まれているのではと勝手に調査していたが、むしろ不審者として彼女の屋敷にとらわれる羽目に。そして次から次と増えていく囚われの人たち。
とにかく、「興信所の探偵」役・図師光博さんと馴染みの「魅力溢れる喫茶店員」今出舞の掛け合いのグルーヴ感がよい。
この二人、1月に見た「遠慮ガチナ殺人鬼」でもコンビ的役柄だったのだが、演技の相性がいいってこういうことかと実感。
それにしても「謎のヒットマン」の存在が反則過ぎた。

2019/11/19ソワレ STRAYDOG Seedling「バンク・バン・レッスン」 (ワーサルシアター八幡山)
銀行強盗の対処訓練を繰り返していくうちどんどん設定が膨らんでいくコメディ。
何度も再演されている作品をストレイドッグで。
この妄想力勝負みたいな作品は再演ごとに色々アレンジできそうでいいなあ。メインキャストの一人が上西恵ということで、転換の間がっつりポニシュやBeginnerを踊るという構成には「儲けた」と。
あの支店のその後が気になる。

2019/10/20マチネ、10/21ソワレ WBB Plus「いえないアメイジング・ファミリー」 (Theater Brats)
妖怪家族の次女が人間に恋をしてしまい、家につれてくることになったが父は大の人間嫌い、彼が人間だとバレたら大変なことに、と画策するがそこに泥棒や神父までやってきて…。
家族全員キャラが立っていて楽しく、急遽翌日に当日券を追加したくらい。
末の妹サトリの笑い方とか最高。
ただ、前の方の席はかなりタイトな空間で床に座布団、膝を痛めているのでこれはきつかった。

2019/11/2マチネ 「おおばかもの ふくらめ!私のイースト菌」 (浅草花劇場)
パン屋だった記憶喪失のヒロインの記憶を戻すために夫と姉はパン屋を始めるが、募集で集まった人たちがみな一癖も二癖もある面々、さらにその中のひとりをライバル視するパン界の大物がいて。
ヒロインの姉役・小嶋菜月は、かつては棒読みをテレビ番組で何度もいじられたくらいだったのだが、それが信じられないくらいの好演で実質主役状態。人は成長できる。
あと、悪役の片割れミセスバターの田名部生来の網タイツのおみ脚が、大変よろしゅうございました。。
なんだかんだシリーズ一作目から見ている「おおばかもの」だが、今まで演劇・ダンス・お笑いとお題は変わっても大筋が変わらなかったのを今回で結構変えてきて、これは見続けてきたお客さんは賛否両論出るかなという構成に。
ただ、あのままだといずれ行き詰まっていたと思うので、ここで選択肢を増やしたのは吉と出る気がする。

2019/11/10マチネ 「魔術士オーフェン はぐれ旅-牙の塔編-」 (六行会ホール)
今回も原作リスペクトっぷりがすばらしく、まさに「挿絵から抜け出してきた」かのような外見に、原作からちょっと外れたシーンでもこのキャラならこうだろう、という仕草やセリフ。ここまでやってくれれば古くからのファンも満足だろうという出来。
みな相当内面を掘り下げてその人物を作ったのだと思う。
松多壱岱演出ならではの魔術の表現はさらに洗練され、殺陣のレベルもおそろしく高くて、アンサンブルに相当できる人たちを揃えた印象。

2019/11/30マチネ 劇団扉座「最後の伝令 菊谷栄物語 -1937津軽~浅草」 (紀伊國屋ホール)
前から行きたいと思っていた扉座の本公演をやっと見ることが出来た。
昭和・太平洋戦争前の実在の劇作家・菊谷栄が大陸での戦争に招集され、その出兵前の青森の旅館での一夜が主な舞台。世の中がどんどん理不尽な方向に進んでいくが、まだレヴューを上演したりジャズのレコードを掛けるくらいはできる、そういう時代。
エノケンの一座が浅草での公演を中断して品川まで菊谷出征の見送りに行ったシーンは史実なんだよな。客が満場一致でそれを許し帰りを待っていたというのも。
津軽弁の方言指導が相当徹底されたらしく、同じ津軽弁でも立場によってそれぞれ違うのがちゃんと表現されていて感心。
横山結衣の演じる北乃祭は実に適役、彼女あてがきならではの使い方。

2019/12/1ソワレ 100点un・チョイス「team」 (シアターサンモール)
うかつにもダブルブッキングしてしまって買い足したが本来11月に見る予定のものだったのでこちらに。
舞台本番前日なのに脚本のラストが来ない、さらに主役が行方不明に。明日本当に開演できるのかとあがく演出家・役者・スタッフたち。
自信なさげで頼りない様子だけど主役のセリフも入れている主役(ややこしい)・西銘駿さん、今年ちょこちょこ見るけどああいう役やらせるとしっくりくる。
ただ、100チョイでは「誰かが彼女を知っている」の方が好みだったかなー。
「team」は、あの作中で稽古している作品が、あまりいいものになりそうにない気がするんだよね。

本来もっと見ているはずなんだけど、10月は台風で一枚、11月はダブルブッキングで二枚チケット無駄にしてしまったのが残念。

観劇記録2019/9

ネタバレ対策で千秋楽を待っていたりしたら個別に書ききれなくなったのでメモで。

2019/9/1ソワレ オザワミツグ演劇 「世界でひとり落ちてだけじゃないのかもよ」於:Geki地下Liberty
大地震の後、ラブホテルの廃墟に逃げ延びた人たち(と、何人かの幽霊)。全体に重いのだけど、東日本大震災を生き延びて引っ越した先でいじめられる過去話のパートが特にしんどい。

2019/9/15 朝劇銀座「おはよう事故物件」
ユニコーンとマリリン、ドアをへだてて繋がる二つの高級クラブの店舗を朝だけ借りて上演するホラー作品。まずはユニコーン側で。こちらだけだとどうにも話が消化不良。

2019/9/15マチネ 「レッドスネーク、カモン!!【青春版】」 於:築地本願寺ブディストホール
昭和の伝説の芸人、東京コミックショウのショパン猪狩とその妻・千恵子の結婚から晩年までを二時間で。肝心のあの芸はかなり再現度が高かったと思う。
三匹のスネークを擬人化して出したりと工夫してて楽しい。それにしてもあそこまで我慢する奥さんは今はそうそういないだろうねえ。
あと、劇中の立川談志の言い回しがかなり本人っぽかった。

2019/9/15ソワレ ILLUMINUS 「星の少年と月の姫」 於: 中目黒ウッディシアター
女子高の演劇部と、そこで演じられる舞台のメタ構造。演じられる作品がいかにも高校演劇部で書きそうな色んな作品への参照ありで、特に「銀河鉄道の夜」のお気に入りのシーンがほぼほぼ使われていたりしてニヤニヤ。
それにしても千歳ゆうさんの少年装がドストライクで眼福。

2019/9/16 マチネ 「笹塚マッドプール」 於:Geki地下Liberty
シェアハウスに同居する男たちと、訪れる人たちと。最初は一方的に色んな人の用事を押し付けられているように見えた主人公・清志がむしろ周りを自分に依存するようにコントロールしている関係が見えてきてからの後半の狂気。清志のガールフレンド・雛子の暴走っぷりも中々。
一部、学生寮住まいで自分も似た経験をしたなと思うシーンが。

2019/9/21 朝劇銀座「おはよう事故物件」
今回はマリリン側で観劇。やっと話がつながってスッキリ。
これだけ近い距離で推しの芝居を見られることは今後もそうそうないと思うし、普通に働いてたら一生この店内には入れないだろうな。一瞬だけのシーンのキャストが、それにはもったいない美人さんでした。

2019/9/21マチネ 「お茶っぴき」於:上野ストアハウス
千秋楽前なので後日追記。
それにしてもいい音させてたな、ビンタ。
以下2019/12/14追記。
舞台となるのは風俗店の控室。
楓とさくらのベテラン嬢たち、若い売れっ子・杏、若いがあまり客がつかない桃子。
そして店長とボーイ、行為中に倒れて運び込まれる常連客に、時折やってくる出前持ち。この全員がちゃんと息をしていて、それぞれのそれ以前やその後に思いを馳せてしまう。
岡元あつこさん、小松みゆきさんの女っぷりに「茂木ちゃん、これを学べよ」と余計なお世話な思いも。
正直、自分が選ぶなら(茂木忍推しだけど杏じゃなく)桃子かなー、彼女が不人気嬢とは思えない。

2019/9/23 「Get Back!!」於:俳優座劇場
始まったばかりなので後日追記。
中盤の宴会シーンの芸達者ぶりが楽しい。