舞台「佐山家シンフォニア」

2019/12/15マチネ シアターザロケッツ「佐山家シンフォニア」(六行会ホール)
亡くなった佐山家当主の三回忌、久しぶりに集まった家族や来客の中には大事なことを告白したい者が何人もおり、またそれをなんとか隠したい人もおり。ごまかそう、隠蔽しようとすることが勘違いを生み、ボタンの掛け違いはどんどん大きくなっていって。
ロケッツ作品には、どんなにドタバタになってこれ以上笑ったら呼吸困難になるんじゃないかと恐怖させられても最後はしっかり人情噺に着地してくれる安心感があるが、これはまさにその「ロケッツらしさ」の見本のような作品。
今回の上演の前に初演のDVDも見ているが、再演では演技や演出があちこちパワーアップしている。箱自体がテアトルBONBONから六行会ホールに変わったことによってセットが大きくなり、特に部屋の窓が大きくなったのもうまく活かしていて、手前の芝居と並行して窓の外でとんでもないことをやっていたりする。
あと、毎度ながら林里容さんの声がいいよね。

シアターザロケッツはちょいちょい作品を再演している気がしたが、本公演の再演はこれが初とのこと。他の再演(「雨のち晴れ」とか)はすべてプロデュース公演。

舞台「何も変わらない今日という日の始まりに」

12/18 劇団皇帝ケチャップ 「何も変わらない今日という日の始まりに」 (中野ザ・ポケット)
これもまた、自分の古傷に触ってくる作品だった。
登場人物は不老研究の施設にいる被験者たちと所長・所員、そして公的機関から来た調査員。
主人公の瑛美は高校生のときの親友の死をきっかけに自らを罰するかのように施設の被験者となったが、死んだ友人は彼女にだけ見える幽霊としてずっと現れ続け、もうひとりの親友とは何十年もずっと文通し続けている。
他の被験者もみな何かしら訳有り。何も変わらない日々を続けていたが、調査員の来訪を機に事態が動いてく。
特に、ずっと家族が迎えに来るのを待ち続ける(がその家族はとうに死んでいる)矢射子と所員の美舞がらみのエピソードが、演者の力もあってか印象深い。
瑛美役・今出舞はそこそこ長い一人芝居が、それもコミカルなモードとシリアスなモードと複数あって、その演技に改めて力量を感じさせられた。

しかしあそこまで何十年も同じ想いを抱え続けるというのは、被験者みな、肉体だけでなく精神も固定されたままなのだろうという推測が成り立つのだが、もしそうであれば内罰的な瑛美にとっては特に残酷な話。
被験者のうち薫だけは物忘れがひどくなっている描写があったので、老化も成長しないまま記憶が徐々に壊れていくのかもしれない。
所長の里見も数十年を経て特に老境に差し掛かった描写はなかったので、自らも実験体としていたのだろうか。

舞台「ビジネス」

2019/12/14 マチネ Pxxce Maker’ 「ビジネス」(ザムザ阿佐ヶ谷)
今年一二を争う、メンタルに刺さった作品。
大手アプリ会社の、そもそもの祖業だったが今は傍流の部署となり本社から隔離されてしまった手紙・便箋部門。その中でも上昇への野心を熱く語り周りの態度を批判し差別発言も繰り返す厄介な男・村上が主人公。彼が心酔する合理的で有能な先輩・五十嵐はしかし家庭では問題を抱えていて。
ある日その部署に、本社からの使者の女性社員・種田が部署解散の通知を持ってやってくる。部署の面々はなんとか撤回させようと起死回生の企画案を練るが…。

いや、とてつもない作品を見た。個人的に仕事で近い境遇になったばかりということもあり、こんなに見ていてしんどくなった観劇は久しぶり。会社の問題、性の問題(登場人物の一人はFtMであり、演者自身もそう)、演劇ならではの突き刺し方。作・演出の谷碧仁さんはまだ二十代だというのが恐ろしい。
正直、アフタートークで演者の素のモードが見られなかったらずっと引きずってしまったと思う。
面会で「こういうの好きでしょ」と言われたけど、そう、こういう心に爪を立ててかき回されるような作品に出会ってのたうち回るのが好きなんだ。

舞台「終わらない世界」

2019/12/13ソワレ 「終わらない世界」 (博品館劇場)
2017/11に紀伊國屋ホールで上演された作品の再演。これも先日の「team」と同じく舞台初日開演までの話。
今回は主役のミワコを演じるのが大和悠河さんから緒月遠麻さんに変わったのだが、それによるテイストの違いを強く感じた。
この作品、禁酒法時代のアメリカをベースにした劇中劇部分とその稽古中の劇中での現実部分があるのだが、現実部分の芝居は緒月さんバージョンの方がよりリアル、劇中劇部分のケレン味は大和さんの方が派手だった印象。
ただこの印象の違いにはセットがやや地味になり(リアルな稽古場に近づいた)、その分見た目のショー感が薄れたせいもあるのかもしれない。数少ない初演と共通キャストの藤田奈那は裏表のある計算する女の子をしっかりと見せ、 二年分の成長を感じさせた。
芝居から受けた印象からすると、ミワコのライバル・サヨコ役の十碧れいやさんと役を交換したバージョンも成立すると思われ、これも見てみたいところ。
あと、この日のアフタートークで語られたのだけど、マチネ・ソワレ間にあるキャストの衣装の帽子が行方不明になり、最終的にトモル役の上遠野太洸さんが場所を言い当ててギリギリ間に合ったというエピソードが。見つからなかったらどうなってたんだろう。

観劇記録2019/10~11

2019/10/14マチネ ENG「探偵なのに」 (シアターグリーン BIG TREE THEATER)
しがない私立探偵はあるお嬢様が不審な男たちに絡まれているのではと勝手に調査していたが、むしろ不審者として彼女の屋敷にとらわれる羽目に。そして次から次と増えていく囚われの人たち。
とにかく、「興信所の探偵」役・図師光博さんと馴染みの「魅力溢れる喫茶店員」今出舞の掛け合いのグルーヴ感がよい。
この二人、1月に見た「遠慮ガチナ殺人鬼」でもコンビ的役柄だったのだが、演技の相性がいいってこういうことかと実感。
それにしても「謎のヒットマン」の存在が反則過ぎた。

2019/11/19ソワレ STRAYDOG Seedling「バンク・バン・レッスン」 (ワーサルシアター八幡山)
銀行強盗の対処訓練を繰り返していくうちどんどん設定が膨らんでいくコメディ。
何度も再演されている作品をストレイドッグで。
この妄想力勝負みたいな作品は再演ごとに色々アレンジできそうでいいなあ。メインキャストの一人が上西恵ということで、転換の間がっつりポニシュやBeginnerを踊るという構成には「儲けた」と。
あの支店のその後が気になる。

2019/10/20マチネ、10/21ソワレ WBB Plus「いえないアメイジング・ファミリー」 (Theater Brats)
妖怪家族の次女が人間に恋をしてしまい、家につれてくることになったが父は大の人間嫌い、彼が人間だとバレたら大変なことに、と画策するがそこに泥棒や神父までやってきて…。
家族全員キャラが立っていて楽しく、急遽翌日に当日券を追加したくらい。
末の妹サトリの笑い方とか最高。
ただ、前の方の席はかなりタイトな空間で床に座布団、膝を痛めているのでこれはきつかった。

2019/11/2マチネ 「おおばかもの ふくらめ!私のイースト菌」 (浅草花劇場)
パン屋だった記憶喪失のヒロインの記憶を戻すために夫と姉はパン屋を始めるが、募集で集まった人たちがみな一癖も二癖もある面々、さらにその中のひとりをライバル視するパン界の大物がいて。
ヒロインの姉役・小嶋菜月は、かつては棒読みをテレビ番組で何度もいじられたくらいだったのだが、それが信じられないくらいの好演で実質主役状態。人は成長できる。
あと、悪役の片割れミセスバターの田名部生来の網タイツのおみ脚が、大変よろしゅうございました。。
なんだかんだシリーズ一作目から見ている「おおばかもの」だが、今まで演劇・ダンス・お笑いとお題は変わっても大筋が変わらなかったのを今回で結構変えてきて、これは見続けてきたお客さんは賛否両論出るかなという構成に。
ただ、あのままだといずれ行き詰まっていたと思うので、ここで選択肢を増やしたのは吉と出る気がする。

2019/11/10マチネ 「魔術士オーフェン はぐれ旅-牙の塔編-」 (六行会ホール)
今回も原作リスペクトっぷりがすばらしく、まさに「挿絵から抜け出してきた」かのような外見に、原作からちょっと外れたシーンでもこのキャラならこうだろう、という仕草やセリフ。ここまでやってくれれば古くからのファンも満足だろうという出来。
みな相当内面を掘り下げてその人物を作ったのだと思う。
松多壱岱演出ならではの魔術の表現はさらに洗練され、殺陣のレベルもおそろしく高くて、アンサンブルに相当できる人たちを揃えた印象。

2019/11/30マチネ 劇団扉座「最後の伝令 菊谷栄物語 -1937津軽~浅草」 (紀伊國屋ホール)
前から行きたいと思っていた扉座の本公演をやっと見ることが出来た。
昭和・太平洋戦争前の実在の劇作家・菊谷栄が大陸での戦争に招集され、その出兵前の青森の旅館での一夜が主な舞台。世の中がどんどん理不尽な方向に進んでいくが、まだレヴューを上演したりジャズのレコードを掛けるくらいはできる、そういう時代。
エノケンの一座が浅草での公演を中断して品川まで菊谷出征の見送りに行ったシーンは史実なんだよな。客が満場一致でそれを許し帰りを待っていたというのも。
津軽弁の方言指導が相当徹底されたらしく、同じ津軽弁でも立場によってそれぞれ違うのがちゃんと表現されていて感心。
横山結衣の演じる北乃祭は実に適役、彼女あてがきならではの使い方。

2019/12/1ソワレ 100点un・チョイス「team」 (シアターサンモール)
うかつにもダブルブッキングしてしまって買い足したが本来11月に見る予定のものだったのでこちらに。
舞台本番前日なのに脚本のラストが来ない、さらに主役が行方不明に。明日本当に開演できるのかとあがく演出家・役者・スタッフたち。
自信なさげで頼りない様子だけど主役のセリフも入れている主役(ややこしい)・西銘駿さん、今年ちょこちょこ見るけどああいう役やらせるとしっくりくる。
ただ、100チョイでは「誰かが彼女を知っている」の方が好みだったかなー。
「team」は、あの作中で稽古している作品が、あまりいいものになりそうにない気がするんだよね。

本来もっと見ているはずなんだけど、10月は台風で一枚、11月はダブルブッキングで二枚チケット無駄にしてしまったのが残念。