舞台「楽園の女王」

イルミナス「楽園の女王」於:シアターモリエール、2019/6/1マチネ、6/2

17世紀に実在したバタヴィア号事件をモチーフにした、ダークファンタジーなガールズ演劇。 未見だが前作「赤の女王」が16世紀ヨーロッパとバートリ伯爵夫人をモチーフとしていて、いろいろとそこからの関連がある模様。

ガールズ演劇は最近正直ちょっと食傷気味だったが、これは贔屓の出演者が多いので楽しみにしていた。正直期待以上の出来。
殺人狂で悪魔崇拝者の王女アンとその従者グレンダの乗っ取り失敗により難破した船がたどり着いた孤島は、しかし製薬会社の秘密の施設がある島で……。
そのアンの序盤から躊躇ない殺しっぷりにこれが一番の悪党かと思いきや、終盤世間離れした上流貴族とその付き人のイザベラとエマが正体を表してからの圧倒的強さの表現。この切り替えの見事さは歌舞伎なら声が飛びそうなくらい。
そして真に一番「殺していた」のは、なんの戦闘能力も持たず、いきなり島に来た殺人狂やら吸血鬼やらに翻弄されていたはずの主人公メアリーだったという構造もお見事。仕事とはいえ薬の人体実験で大量の人命を奪いすでに心壊れていたメアリーは伝染病を意図的に媒介し、「百人殺して悪魔召喚」を狙うアンより多くの命をとっくに奪っていたのだった。 「おいたが過ぎた」アンが処刑されるシーンでも、実は舞台端でメアリーが笑っているという、気づいた人だけがゾクリとする仕掛け…。
「処刑」されたアンのその後など、いろいろ後日談の妄想が捗る作品でもありました。
終幕時点で結局人間として生き延びたのは製薬会社のフィオナひとりだけだったんだけど(他はヴァンパイアと悪魔と死神)、あの強運こそ最強なのかもしれない。

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舞台「花嫁は雨の旋律」再演

於:シアターモリエール、2018/11/3マチネ

例によってひとまず自分のツイートまとめを元に。
昨年、中野のザ・ポケットで上演された「花嫁は雨の旋律」の再演。

時計技術者の夫・片山均とピアニストの妻・雨だが、雨が事故で記憶を失い幼児退行してしまう。均はそれまでの記憶を失い大人の体のまま心は幼児になった妻となんとか生活しようとするが…。
退行する前の雨(大雨)と退行後の雨(小雨)を二人一役で演じる。片山均役と片山雨(小雨)役は初演から変わらず中谷智昭と北澤早紀。大雨は初演の内田眞由美に変わって栗生みな。

舞台はスジが分かって見る二回目の方が感情移入できるが、この作品は特にそう。この後に起こることが分かって気持ちが先回りして動いてしまう。
この作品ダンスの取り入れ方がうまくて、ミュージカルによくある突然ばっさり切り替わって踊りだすようなのではなく、自然な仕草からスムーズにダンスに繋がる箇所がいくつかある。

どうしてもシリアスになりがちな作品の中でコメディリリーフ的な役割を果たすのが喫茶店「タイムレスカフェ」の面々。初演からこのカフェのシーンは楽しかったが、特にマスターの芝居の濃さが大変なことに。このカフェだけを共通で使ったスピンオフ作品が色々考えられそう。

マンションの一室のはずの空間がちょっとの変更と芝居でカフェになったり均の職場になったり病院の待合室になったり屋外にするステージ演出が絶妙。抽象的な箱やパイプならまだしも、明らかにマンションのLDKにしか見えなかった場所が一瞬で違う場所に見える。このあたり、初演の時よりずいぶん洗練されていた印象。

雨がピアニストという設定のため作中で何度かピアノ演奏のシーンがあるのだが、初演ではすべてアテブリ。しかし今回は大雨役の栗生さんが弾けるのでステージ上に本物のピアノを持ち込んでの生演奏に。使われる楽曲は高木正勝の”Perpetuum Mobile”と”Girls”。舞台上で毎回弾くには結構大変な曲のはず。

初演時には物販に台本はあってもパンフレットがなかったので、今回初めてパンフレットが登場。初演とは脇役の役名なども細々変わっていたので、余裕があれば台本も買って初演のものと読み比べたかった。

なお、初演時は作品名のせいか上演期間中連日の雨だったが、今回は千秋楽に雨。たぶん再演するたびに降られるのだろう。