舞台「ダレンジャーズ2」

2020/1/25 「ダレンジャーズ2」(六行会ホール)
「邪悪・ナイト・ライジング」「ダレンジャーズ」と続くシリーズの三作目、なのだが、前二作を見ていない私でも終始爆笑。東西のヒーロー物からいろいろネタを頂きつつ、かなりのギャグとシモネタと、しかし要所要所でしっかり熱くヒーロー物に。
シリーズ通しての主人公格・阿久津正斗の特質が「非道なことをするほど強くなる」邪悪の力のため本来は協力するべき他の戦士を殴る蹴るしてパワーアップとか、各キャラの能力設定からしておかしい。
阿久津と共闘する財団の天才少年の護衛・神埼役の栗生みなさん、敵方ヘルダークネスの幹部ペイン役の藍菜さんは、ふたりとも猛烈なキャラ立ち。特にあそこまで笑いに振った栗生さんを見るのは初めて。ヒロインで守られるポジションの桜撫子役・今出舞さんはこの布陣だとさすがにちょっと目立つ箇所が減るけど、それでもクライマックスでは大活躍。

シリーズ通しての大悪役・エレクター役の五十嵐啓輔さんが急激な喉の化膿で途中降板したのは残念だけど、やっと退院されたようで一安心。アンサンブルの一人を急遽エレクター役にしてわずか一公演の休演で立て直した後の上演回も見てみたかった。

舞台「朝日に願え」

2020/1/5 朝劇銀座「朝日に願え」(studio marilyn)
脳死状態となったスナックのママの延命治療を続けるかどうかを巡る、ママの息子、チーママ、男女の常連客、計四人での会話劇。 ロングラン公演が決まったようなので、今のうちにネタバレにならない感想をあげておく。
谷碧仁さん脚本だけあって人物造形がリアルで、特に(「ビジネス」の村上もだったが)自分の考えを押し付けようとするタイプの浩司は絶妙にイラッとさせる。
延命治療に対して一番優柔不断な実の息子朔太郎役の田名瀬偉年さん、「吸って吐く」でのDVから二重人格になった哲人も「本当にそういう人」に見えたが、今作でも「そういう人」にしか見えない入り方。
実際の高級クラブの店内を朝だけ借りて行われる朝劇銀座には独特のリアリティがあるが、今回は特に店の設備であるカラオケの使い方が上手い。
真由役の栗生みなさん、昨年末の週末には朝にこれをやってからの「純血の女王」2公演をやっていたわけで、いくら演技とはいえ感情の振り幅……。

50分程度の小品とは思えない濃密な作品で、見終わった後ため息。
自分だったら、医療費が続く限りは結論を先延ばしにするんだろうなあ。

舞台「純血の女王」

2019/12/21マチネ・ソワレ共 ILLUMINUS「純血の女王」(六行会ホール)
「赤の女王」「楽園の女王」と続く「女王ステ」三部作の三作目。
「赤の女王」は16世紀末のバートリ伯爵夫人、「楽園の女王」 は17世紀前半のバタヴィア号事件を下敷きにしていたが、今回は17世紀後半オーストリアで実際にあった魔女裁判「花の魔女」事件がベース。

百年に一度の「祝祭の日」を控えたオーストリアの古城リーガースブルクにいるのは女城主ガラリンと従者たち、そして厳しく育てられている双子の姉妹シエナとカタリーナ。
その城に旅の宿を求めて訪れるは、貴族エリザベートと従者アメリア。
城下町フェルトバッハのパン屋の新入りナターリエによる流言でカタリーナは魔女裁判に掛けられ、そこから全てが狂っていく。
この、拷問の責めに耐えかねて無実のカタリーナがついに「他の魔女」の名を挙げるシーンが圧巻。 (ここで「なぜその人の名を挙げたのか」はバーバラ役の錦織めぐみさんのブログで深い考察をしている )

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舞台「楽園の女王」

イルミナス「楽園の女王」於:シアターモリエール、2019/6/1マチネ、6/2

17世紀に実在したバタヴィア号事件をモチーフにした、ダークファンタジーなガールズ演劇。 未見だが前作「赤の女王」が16世紀ヨーロッパとバートリ伯爵夫人をモチーフとしていて、いろいろとそこからの関連がある模様。

ガールズ演劇は最近正直ちょっと食傷気味だったが、これは贔屓の出演者が多いので楽しみにしていた。正直期待以上の出来。
殺人狂で悪魔崇拝者の王女アンとその従者グレンダの乗っ取り失敗により難破した船がたどり着いた孤島は、しかし製薬会社の秘密の施設がある島で……。
そのアンの序盤から躊躇ない殺しっぷりにこれが一番の悪党かと思いきや、終盤世間離れした上流貴族とその付き人のイザベラとエマが正体を表してからの圧倒的強さの表現。この切り替えの見事さは歌舞伎なら声が飛びそうなくらい。
そして真に一番「殺していた」のは、なんの戦闘能力も持たず、いきなり島に来た殺人狂やら吸血鬼やらに翻弄されていたはずの主人公メアリーだったという構造もお見事。仕事とはいえ薬の人体実験で大量の人命を奪いすでに心壊れていたメアリーは伝染病を意図的に媒介し、「百人殺して悪魔召喚」を狙うアンより多くの命をとっくに奪っていたのだった。 「おいたが過ぎた」アンが処刑されるシーンでも、実は舞台端でメアリーが笑っているという、気づいた人だけがゾクリとする仕掛け…。
「処刑」されたアンのその後など、いろいろ後日談の妄想が捗る作品でもありました。
終幕時点で結局人間として生き延びたのは製薬会社のフィオナひとりだけだったんだけど(他はヴァンパイアと悪魔と死神)、あの強運こそ最強なのかもしれない。

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舞台「漂白剤」

山下菜美子プロデュース「漂白剤」 於:テアトルBONBON

浴槽に横たわる「先生」と暮らす女を、栗生みな、中野裕理、相笠萌、佐藤仁美の四人のキャストが演じる約40分間の一人芝居。
自分は5/16 20時(相笠萌)・5/18 13時(相笠萌)・5/18 17時(栗生みな)
の三回観劇。おなじ脚本、演出なのに相笠回と栗生回では「私」の醸し出す気配がガラリと変わる。
40分間、客席の咳どころか物音ひとつも許されないような緊迫感ある作品で、最初から最後まで静かにピンと張り詰めた、あんな客席は経験がない。
できれば全キャスト分見たかったが、見る側の精神的な負荷も相当高く二人分までで断念。
わかりやすく「先生」は浴槽の中でもう死んでいるのだが、個人的にはあえてこういう解釈をしている。

相笠萌は「吸って吐く」と「漂白剤」で役者の階段を一気に二段くらい登った印象。