舞台「雨のち晴れ」

シアターザロケッツ「雨のち晴れ」於:テアトルBONBON、2019/5/25マチネ

先週に引き続きテアトルBONBON。
2012年から実に五度の再演を数えるロケッツの代表作の一つ「雨のち晴れ」。中華料理屋を営む兄妹とそれを取り巻く人達の物語。
自分は2016年の三度目、2017年の四度目も見ているが、今回客席についてまず驚いたのが、これまでと舞台のかみしもが逆になっていたこと。今までは店の入口が下手、店の人が出てくるのが上手だったのが左右入れ替わっていた。
この作品、再演ごとに毎回キャストの大半は入れ替わるのだがその中で五回中四回に出演しているのが作中の憎まれ役である神田役の天野きょうじさん。その神田の演技のテイストも今までと明らかに違っているのに序盤で気づく(終演後の面会で天野さんに聞いたら、やはり「だいぶ変わりました」と)。 続きを読む 舞台「雨のち晴れ」

舞台「漂白剤」

山下菜美子プロデュース「漂白剤」 於:テアトルBONBON

浴槽に横たわる「先生」と暮らす女を、栗生みな、中野裕理、相笠萌、佐藤仁美の四人のキャストが演じる約40分間の一人芝居。
自分は5/16 20時(相笠萌)・5/18 13時(相笠萌)・5/18 17時(栗生みな)
の三回観劇。おなじ脚本、演出なのに相笠回と栗生回では「私」の醸し出す気配がガラリと変わる。
40分間、客席の咳どころか物音ひとつも許されないような緊迫感ある作品で、最初から最後まで静かにピンと張り詰めた、あんな客席は経験がない。
できれば全キャスト分見たかったが、見る側の精神的な負荷も相当高く二人分までで断念。
わかりやすく「先生」は浴槽の中でもう死んでいるのだが、個人的にはあえてこういう解釈をしている。

相笠萌は「吸って吐く」と「漂白剤」で役者の階段を一気に二段くらい登った印象。

観劇記録2019/4後半~2019/5前半

備忘録として。

2019/4/20 「SKE48版ハムレット」 (club eX)

TV番組「SKEBINGO!」の企画から立ち上がった、SKE48メンバーによるハムレット。これが舞台経験のあるメンバーの少なさから想定していたより、はるかに良かった。いろいろ経験の多い高柳明音はもちろんのこと、特に古畑奈和と野島樺乃は今すぐ外の作品に出していいレベル。棺に入ったオフィーリア(野島樺乃)のシーン、美しかったな。
丸尾丸一郎さん、「山犬」もそうだけどアイドルに芝居をつけるのがうまいのでは。

2019/4/27 劇団時間制作「吸って吐く」 (萬劇場)

久しぶりにヘビー級の作品(精神的な意味で)。
交通事故で幼女を死なせてしまい懲役から帰ってきた父親、代わりに飲食店を経営している母親、事故以来ずっと家にいる長男・哲人、親からかまってもらってない長女・春代。そこに出入りする結婚間近のカップルやボランティア団体のリーダー格、そして長女の家庭教師。家庭教師は父親が死なせた娘の父で復讐を考えており、父親だけがそれを知っている。
過去の悲劇に対する真相の告白はあってもいかにもな解決はなく、ただ最後かすかに希望は残る。春代役・相笠萌は強硬な拒絶から打ち解けていくような芝居がしっくりくる。
見終わった後の余韻の重いこと重いこと。

2019/5/3 「天狗 ON THE RADIO」(東京芸術劇場 シアターウエスト)

閉局間近の地方のコミュニティーFMを舞台にした作品。ラジオをテーマにした作品だけに、緒月遠麻さんはじめ何人かは放送シーンでちゃんと「ラジオの声」になっている。普通にこの番組聴きたいな、と思うくらい。
そしてモロ師岡さん、出てくると存在感で全部持っていくのがズルい。
最後、過去からの手紙でがっつり泣かせつつも、安易に「閉局するのやめた」にしないのがマル。
個人的な大ポカで、もともと開演時刻を取り違えていたところに電車の遅延が加わり、久しぶりに本気で走る羽目に。

2019/5/4 劇団時間制作「吸って吐く」 (萬劇場)

前回観劇後の胸のつかえが取れず、当日券で二度目。開始時点でそれぞれの人物の立ち位置を知っている分、よりそれぞれの心情が胸に刺さる。哲人の最初のセリフからちゃんと意味があることは二回目を見ないと気づけないかも。
実の親からネグレクトされていた春代と、実の娘を喪ってしまい加害者の娘を殺すために家庭教師になった男がある時期から擬似父子となっていくシーケンスの救いよ。
舞台美術が抜群に素晴らしい作品でもあったので、終演後にステージ前まで行って細かく細部を観察してしまった。

2019/5/11 「母母母と笑いなさい」 (中野MOMO)

母との関係をテーマにした4本の短編からなるオムニバス作品。
プロデュースした初恋タローさんがお笑いの人だけに、お笑い芸人を主人公にした4本目が一番力が入っているように感じた。
まだ上演中の作品に付き後で加筆。
以下加筆:
「何食べたい?」いじめから逃れるため不良グループと付き合うようになり次第に堕落していく少女とその母の物語。正直四作品中では一番こじんまりとしていたかな?
「寝たふり」バンドマンとは名ばかりのヒモのせいで風俗嬢からAV女優へと進んでいくがそこで意義とプライドを獲得する主人公と、その世界で人気が出たことに嫉妬しブチ切れるヒモと。終盤に出てくる母のキャラクター造形が強烈。
「アケビの花」かつて殺人を犯し今は別れて暮らしている母と、堕落しつつある主人公と。母親役が一本目の「何食べたい?」ではいじめっ子役だった森詩織だが、それにしばらく気づかなかったくらいのみごとな演じ分け。
「笑う母」この作品だけ主人公が男性。大阪から上京して漫才コンビを組んでいる主人公と、ザ・大阪のおばちゃんな母と。プロデュースしたタローさんがお笑い畑の人だけに、エピソードに説得力があった。

観劇記録2018/12~2019/04(随時追記)

備忘録として。

2018/12/15 「ダンスカンタービレ2018」 (博品館劇場)
初演では一切のセリフ無し、ダンスだけで魅せる作品だったが、2018では田野優花による語りが追加。まさかこれから4ヶ月もせずに演出・主演の森新吾さんが亡くなられるとは…。
2018/12/15 「スナップ・アウェイ」 (テアトルBONBON)
落ち目のオカルト雑誌と人気週刊誌、ふたつの雑誌編集部を巡る巧妙な構成のコメディ。両編集部の編集長役がいい味。
2018/12/16 「おおばかもの~憧れのサンパチマイク」 (草月ホール)
芸事に打ち込む「おおばかもの」たちを描く群像劇、今回の題材は漫才。思い返すと、主役コンビに後輩が憧れて入ってくるのに説得力を持たせるだけの漫才シーンが足りないか?
2019/1/14 「遠慮ガチナ殺人鬼」(中野ザ・ポケット)
陶芸家だった故人の通夜に集まった人々はみな「自分が殺した」と言い出し、その言い合いの先に…。金貸しコンビの片割れを演じた今出舞が特に抜群。
2019/2/2 「夜曲」 (新宿村LIVE)
善人会議/扉座の「夜曲 ~放火魔ツトムの優しい夜~」の、劇団アカズノマによる再演。作品名だけは知っていたがこういう話だったとは。
2019/2/23 「ネーチャンズ☆8」 (築地ブディストホール)
オーシャンズ某を元ネタにしたコメディ。終始腹筋崩壊状態で、呼吸困難の恐怖を味わった。ここでも研究所長役の今出舞がいい仕事。カラスカさんの作品は今後チェックしていこう。
2019/3/2 「山犬」 (サンシャイン劇場)
劇団鹿殺しの「山犬」を、キャストの性別を入れ替えての再演。「犬」役の山本光二郎さんの身体表現が圧倒的。人はあの体格であんなふうに動けるものか。監禁されて次第に壊れていく雲雀役の太田奈緒、かなりいい。もっと芝居を見てみたい。物語の軸となるマコト役の岩立沙穂も、引き出せば引き出しただけもっといろいろ出てきそう。
2019/3/21 「見渡す限りの卑怯者」 (あうるすぽっと)
精神病院に措置入院された若い画家と、医者と看護師と…。凄いものを見た。主演の百名ヒロキさん、演技もセリフ量もダンスシーンでの体の使い方も圧倒的。
2019/3/23 「出雲の涙 vol.2」 (キンケロ・シアター)
いにしえの女芸能者「出雲阿国」に題材を取った時代物だが、着物に普通にニットキャップやバッシュを合わせているのが最近のノリか。うっかり目当ての演者がほぼ出ていない逆班のチケットを取ってしまう失態。
2019/3/28 「十二番目の天使」 (シアタークリエ)
原作は米国のベストセラー。幸せの絶頂から事故で妻子を亡くした男が、リトルリーグの指導を引き受けて再生していく物語。この作品世界に悪意を持つ人は一人もいず、ただ運命が人を翻弄する。
2019/3/30 「カーテンコール」 (新宿村LIVE)
同じ脚本家による女子硬式野球部もの「スリーアウト」三部作と同じ春山高校が舞台となる作品で、「スリーアウト」一作目の逸話を演劇部が舞台化しようとするも、バス事故で5人の部員が幽霊に。自分は「スリーアウト」一作目の映画版の試写を見たばかりだったので感情移入しやすかったが、まったく予備知識がないとどう感じるんだろう? 同じ脚本を違うキャスト・演出・劇場で一ヶ月前にもやっているがそちらは未見。
2019/3/30 「両家顔合わせ」 (中野ザ・ポケット)
料亭の娘と銀行員の息子、結婚を控えて料亭での両家顔合わせの日。しかし料亭の主人には先方と顔を合わせたくない事情があり…。エンドレスで笑わせて来て、最後にはしみじみいい話にするシアターザロケッツの匠の技。これも笑いすぎによる呼吸困難で死ぬかと思った。
2019/4/14 「YESTERDAY  ONCE  MORE. -あの時君は若かった-」(武蔵野芸能劇場)
平成の末、定年退職を迎え旧友たちと馴染みの居酒屋に来た男が、昭和の末にタイムスリップ。その数日後に起きる、悔いの残るある出来事を阻止しようとするが。この時期ならではのタイムリーな作品。過去時代の恋人役・宇井真白、出番の尺は短いがあまりにも当時のメイクとファッションが似合いすぎて印象が濃い。過去タイムスリップものは「何を変えたいか」に書き手の人が出るように思う。

まだなにか抜けている気がするが、さすがに3月後半はちょっと行き過ぎか。学生の演者が多い場合、長期休みの時期に公演が集中しがちではあるのだけど。

舞台「花嫁は雨の旋律」再演

於:シアターモリエール、2018/11/3マチネ

例によってひとまず自分のツイートまとめを元に。
昨年、中野のザ・ポケットで上演された「花嫁は雨の旋律」の再演。

時計技術者の夫・片山均とピアニストの妻・雨だが、雨が事故で記憶を失い幼児退行してしまう。均はそれまでの記憶を失い大人の体のまま心は幼児になった妻となんとか生活しようとするが…。
退行する前の雨(大雨)と退行後の雨(小雨)を二人一役で演じる。片山均役と片山雨(小雨)役は初演から変わらず中谷智昭と北澤早紀。大雨は初演の内田眞由美に変わって栗生みな。

舞台はスジが分かって見る二回目の方が感情移入できるが、この作品は特にそう。この後に起こることが分かって気持ちが先回りして動いてしまう。
この作品ダンスの取り入れ方がうまくて、ミュージカルによくある突然ばっさり切り替わって踊りだすようなのではなく、自然な仕草からスムーズにダンスに繋がる箇所がいくつかある。

どうしてもシリアスになりがちな作品の中でコメディリリーフ的な役割を果たすのが喫茶店「タイムレスカフェ」の面々。初演からこのカフェのシーンは楽しかったが、特にマスターの芝居の濃さが大変なことに。このカフェだけを共通で使ったスピンオフ作品が色々考えられそう。

マンションの一室のはずの空間がちょっとの変更と芝居でカフェになったり均の職場になったり病院の待合室になったり屋外にするステージ演出が絶妙。抽象的な箱やパイプならまだしも、明らかにマンションのLDKにしか見えなかった場所が一瞬で違う場所に見える。このあたり、初演の時よりずいぶん洗練されていた印象。

雨がピアニストという設定のため作中で何度かピアノ演奏のシーンがあるのだが、初演ではすべてアテブリ。しかし今回は大雨役の栗生さんが弾けるのでステージ上に本物のピアノを持ち込んでの生演奏に。使われる楽曲は高木正勝の”Perpetuum Mobile”と”Girls”。舞台上で毎回弾くには結構大変な曲のはず。

初演時には物販に台本はあってもパンフレットがなかったので、今回初めてパンフレットが登場。初演とは脇役の役名なども細々変わっていたので、余裕があれば台本も買って初演のものと読み比べたかった。

なお、初演時は作品名のせいか上演期間中連日の雨だったが、今回は千秋楽に雨。たぶん再演するたびに降られるのだろう。